「イッツジャズ」レーベル

----- スイングジャーナル2006年2月号より -----
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光 輝く新世代ユニット フォトンデビュー!

 

この数年、上原ひろみ、松永貴志、矢野沙織といった80年代生まれの若く、才能溢れる邦人アーティストがジャズ界の人気と活性化に大きな役割を果 たしている。そして2006年春、また一組の注目すべき新ユニットが登場する。その名は“光”(と書いて“フォトン”と読む)。平均年齢20歳の自由で柔軟な感性を持つ、若き4人の挑戦者たちにとって音楽ジャンル上の既成概念は希薄だ。ラテン、ポップス、ミュージカル、そしてクラシック、ボーダーレスに美しいメロディを操りながら“光”流ジャズに仕上げたデビューCD『PHOTON』が間もなくリリースされる。

彼らの演奏には、未来に夢を託す、みずみずしい青春の風景がある

 型にはまることなく、音楽の自由を満喫しているかのようなユニット“光(フォトン)”がデビューを飾った。現在、音大に学んでいるメンバーが中心になっている4人組で、クラシック音楽の研鑽をみっちり積んできた彼らが“即興”というキーワードのもとに、はじけんばかりの情熱をぶつけ合ってみせる。思えばジャズをプレイする上でもっとも大切なものが、何ものにもとらわれることのない、このような自由な発想だったのではなかっただろうか。ともすればジャズとは名ばかりで、型にはまった音楽が多くみられる昨今にあって、クラシックという“様式美”の世界から飛び出してきたフォトンの演奏は、とびきり新鮮なものに響いてくる。彼らの音楽は、狭い意味でのジャズという範疇に入るものではないかもしれないが、その発想の自由さはジャズにも共通 するものである。
 オープニングを飾る、アストラ・ピアソラの名曲「天使の死」。うねるように強烈な響きをもつ木村のベースを耳にしただけで、彼らが単に心地よいだけの音楽をプレイするユニットではないことがわかる。タンゴという古典様式から脱け出して、音楽にかける夢と未来を示したピアソラの精神は、彼らにとっても大いに共鳴できるものなのだろう。ピアソラ・ナンバーではもう一曲「オブリビヨン」もとりあげられている。涙が出るほど切ないメロディを奏でる白須のバイオリンは、どこまでも青春の甘さとほろ苦さを含んでいる。ギドン・クレーメルの超名演(『ピアソラへのオマージュ』に収録)を、すべてを見通 してきた芸術家が到達し得た孤高の姿だとするならば、ここでの演奏には未来に夢を託す、みずみずしい青春の風景がある。
 いっぽうクラシックの名曲へのアプローチには、逆にフォトンならではの純音楽的な遊び心がいっぱいに感じられる。おなじみショパンの「ノクターン第二番」を、意表を突いて4分の5拍子で演じてみたり、パガニーニ「奇想曲」ではエキゾチックなラテン・リズムを大胆に使ってみたりと、ひとひねりしたアレンジの面 白さで楽しく聴かせてくれる。クラシックのプレイヤーが演奏するジャズというと、格調だけが先行して音楽のスリルに乏しいものが見受けられるのだが、フォトンの演奏にはプレイする楽しさとともに、ユニットとしての熱っぽい雰囲気がよく感じられる。このあたりは、同世代の気の合ったプレイヤー同士というところが大きいのかもしれない。クラシックのテクニックをみっちり学んだあとで、ジャズが猛烈に好きになってしまったというフォトンのメンバーたち。まだまだどのように音楽を展開させてゆくのかわからない、将来がとても楽しみなユニットのデビューである。
(岡崎正通)




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