「イッツジャズ」レーベル

----- スイングジャーナル2006年2月号より -----
ディスク評

スリリングなことこの上ない若手カルテット
 のっけから弾力性のある力強いサウンドに圧倒される。アコースティックな楽器の響きが美しいこの作品は、はたちを過ぎたばかりの若い4人によって作り上げられたものだ。音楽大学でクラシックを専攻している3人と、昨年の浅草JAZZコンテストで金賞に輝いたピアニストによるカルテットは、ジャズを共通 の言語としながら極めて幅広い音楽性で聴き手に迫ってくる。この面白さが格別 で、しかもスリリングなことこの上ない。
 良質な作品を作り続けてきた3361*BLACKの伊藤秀治プロデューサーゆえの、ミュージシャンと音楽に対する愛情と熱意が篭った姿勢も強く感じられる。企画優先の国内制作盤が多い中、この作品ももちろん企画力が強い要素にはなっているが、企画倒れにならず、しっかりジャズの素晴らしさを伝えているところが見事であり素晴らしい。何より、メンバーの4人と伊藤プロデューサーでなくてはできない内容にまで高まっているところが評価に値する。
 それにしても何とふくよかなサウンドであることか。ピアノ・トリオにバイオリンを加えたカルテットが醸し出す音楽は、この作品で取り上げられたクラシックやピアソラの曲にぴったりだ。格調があって、それでいて若さが弾け飛ぶ。伝統的でありながら超斬新。相反するいくつもの要素がジャズの手法を介在にして自然な融合を果 たす。スリリングと書いたのもそれゆえだ。
(小川隆夫)


生き生きと輝いているばかりか、聴き手に迫る“勢い”が凄い
 若く有能なプレイヤーが現れると、その周囲に同年齢で共演し得る人材がなかなかいないため、一般 的には彼あるいは彼女を年長者たちの中に入れてデビューさせる、というパターンが多いが、それでは結局新しい才能が昔ながらのジャズに取り込まれてしまう、と考えたプロデューサーの伊藤秀治氏は、20歳前後の有能な人材を探し求めてついに“光(フォトン)”という4人組のグループを立ち上げ、レコーディングに漕ぎつけた。
 国立音大や藝大などに在籍中のメンバーが多いのだが、全員ジャズに関しては“教育”を受けておらず、経験は浅くとも、自ら飛び込んだジャズという世界の中で懸命にプレイしていて好感が持てる。さらに彼らの音楽は、生き生きと輝いているばかりか、聴き手に迫る“勢い”が凄い。バイオリン+ピアノ・トリオという編成は、聴く前にさまざまなイメージを喚起するが、実際に出てくる音は予想とかなり異なるものだった。フォー・ビートのナンバーは皆無で、ピアソラの曲はもちろんタンゴだし、ショパンのノクターンは5拍子で処理、パガニーニの「奇想曲」は軽やかなラテン・ビートで・・・と、様々なリズムを駆使して荒削りながらキラキラと輝くプレイを繰り広げていく“光(フォトン)”の演奏は何とも爽快そのもの。そして何よりも全員が楽器をフルに鳴らしきっていることに、また、グループ名にふさわしいスピード感に、強く心を揺さぶられた。
(大村幸則)




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