----- スイングジャーナル2004年2月号より -----
〜ディスク評〜

世界に類のない新境地を開拓したXUXU万歳 !
 2002年の秋にデビューしたXUXUの最初のアルバムを聴いたときは正直言って
衝撃を受けた。< アベ・マリア > や < くるみ割り人形 > などクラシックをテーマ
にしたアルバムにはじまって、秋吉敏子の < 孤軍 > やチック・コリアの < スペイ
ン > などジャズに挑んだ「しゅしゅ's ジャズ」、さらには < パタパタ > から
< 銀座カンカン娘 > までさまざまな世界の曲を取り上げた「しゅしゅ-ワールド」
という3種の異なるアルバムを同時 ! に発表した女声4人組のはち切れるような
エネルギーと創造力の豊かさに驚かされたのだ。驚かされると同時に、評者の脳
裏をよぎったのは、それまで欧米の専売特許とあきらめていた、アカペラによる
ジャズの表現が日本人にも可能なことを立証して見せたXUXUが誕生するまでの長
い道のりのことだった。XUXUの伊藤秀治プロデューサーによれば、グループが今
日の成果を生むまでにはじつに7年 ! もの歳月がかかったという。10曲ほどスタ
ンダードを覚えたら、もう歌手ですといってあんちょこデビュー(?)してしまうよ
うな似非シンガーがはびこる世界で、これはまたなんと非現実的な試みだろう
か。伊藤プロデューサーの情熱と期待に応えて研鑽し、世界的にもユニークな
ボーカル・アンサンブルへと成長したXUXUに対してはまずはじめに大いなる賛辞
を贈りたいとおもう。そのXUXUはデビューしてから10ヶ月目に「か・れ・は」
と題するスタンダードを題材にした第2作をリリースしたが、それから4ヶ月、
早くもここにこの新作「ピアニスツ」を完成させた。この間、評者は、2003年
10月にNHK-FM放送の「オールデイ・ジャズ・リクエスト」に生出演したXUXU
をスタジオで聴いた。長時間の生番組だったから、このとき、聴取者からはメー
ルやファックスで多数の反響が寄せられた。「日本にもこんなに凄いアカペラ・
グループがあるというのを知ってびっくりした」と番組を聴いた聴取者は一様に
驚いた様子だった。そのときのXUXUはスタンダードを中心に披露したのだった
が、もしその際、この新作に聴かれるようなデューク・エリントン・オーケスト
ラの < A列車で行こう > と < サテン・ドール > をメドレーにした(2)などを聴か
せていたら、聴き手はさらに一層のオドロキと感動を体験したはずだ。この新作
では、XUXUはオスカー・ピーターソンの演奏で知られる(1)、マル・ウォルドロ
ンが演奏した(3)、アート・テイタムの名演で知られる(9)、ビル・エバンスの
(10)など、標題通りジャズ・ピアニストとゆかりの深い曲を取り上げて、4声の
アンサンブルでその印象を綴るという、前代未聞の試みに挑戦している。よく聴
くと、XUXUの面々は歌うことの楽しさを身につけてきたようで、(2)では誰かが
クリスマス・ソングの旋律をXUXU語に紛れ込ませている。
 ジョージ・シアリングの(4)で "ころりん" とか "ころころりん" とかにまじって
"コカ・コーラ" などと歌っているようにも聴こえる。驚嘆したのはカウント・ベイ
シーのオルガン編(6)で、マッシブに揺れるオルガン・サウンドが巧みに表現さ
れていることだ。世界に類のない新境地を開拓したXUXU万歳 !  
(児山紀芳)

偉大なジャズ・ピアニストたちの名演を厳選してXUXU化
 一挙に3枚ものアルバムを引っさげて2002年の末にXUXUがデビューしたと
き、このグループが可能性として持つ音楽のユニークさに驚かされると同時に、
彼女たちの醸し出すほんわりした雰囲気に包まれてすっかりほっとした気分に
なってしまった。そして彼女達はその個性をしっかりと熟成させて2003年9月に
スタンダード・ナンバー集「か・れ・は」(03年5,6月録音)をリリースしたが、
そのわずか5ヶ月後には早くも新作を録音してしまった。それはもちろん、制作
者伊藤秀治氏の頭に次々と浮かび上がってくるアイデアと、それらをXUXUの4人
に "音化" させていくプロデューサーとしての手腕があってこそのことなのだが、
それにしても、繰り出されてくるアイデアとそこから出てきた曲の数々を、鮮や
かに自分たちのウタへと再創造していく彼女たちのパフォーマンスは見事なもの
だ。そして、そこで最も重要なポイントを成しているのが "XUXU語" と呼ばれる
ジャジーなスキャットでも舌足らずなバブリングでもない不思議なワードレス・
ボーカル。あくまでも英語が外国語である日本人が口に上らせるには最適、とま
で思わせてしまうほど自然な響きに満ちた "XUXU語" は、とてもさりげない形で
彼女たちの魅力を伝えてくれる。4人の並大抵でないセンスと実力が生み出した
この "XUXU語" から伝わってくるのは、何とも言えぬ"ほんわかムード" なのだ
が、その暖かい空気につつまれると、たまらない心地よさを感じてしまうのだ。
 偉大なジャズ・ピアニストたちの名演を厳選して "XUXU化" するというこの新
作のアイデアはこれまでで最も秀逸なものであり、その結果、彼女たちの魅力が
さらに鮮やかな形で捉えられることになった。オスカー・ピーターソンが黄金の
トリオで録音した歯切れよく力強い < 酒とバラの日々 > 、マル・ウォルドロンの
名盤「レフト・アローン」に収められた仄暗いバラード(3)、斬新な解釈がいかに
もセロニアス・モンクらしい(8)、アート・テイタムの超絶技巧満開の(9)といっ
た名ピアニストたちお馴染みの名演が、 "XUXU語" に翻訳されることによって、
オリジナル・バージョンの香りをどこかに残しながら、つまり各ピアニストの個
性的な演奏を再現しながら全体をXUXUならではの色彩に染め上げていく、そのプ
ロセスが "ほんわかムード" の中にスリルを織り込んでいて、凄いな、と思わせる
のだ。もちろんオリジナル演奏に親しんでいてこそその凄さ、面白さを100パー
セント味わうことができるわけで、もしお聴きになったことのないものがあった
ら、まずはそれを聴きこんだ上で彼女たちのパフォーマンスに接してほしい。カ
ウント・ベイシーのトリオ演奏を題材に取った2曲では、ベイシーの "音符節約型"
ピアノを "XUXU化" した(5)と、オルガンの響きを歌声で再現していく(6)との
対照の妙が聴きどころ。これら2曲に彼女たちの持つ空恐ろしいほどの才能が凝
縮されていると言っても過言ではないだろう。
 さて次はどんなアイデアが飛び出してくるのか。伊藤さん、期待しています !
(大村幸則)



 Copyright 2002 3361*BLACK, Ltd. All rights reserved.