「イッツ・ジャズ」レーベル

 

----- スイングジャーナル2003年6月号より---------------

 

感動に満ちた最後の親子共演

 マルはアメリカよりも日本で愛され、評価されてきたジャズマンだ。彼の人情の厚さを感じさせ
る情感の表現は日本人の心にぴったりくるものがあるからだ。また彼の湿っぽいブルーなピアノ演
奏は明るい演奏を好むアメリカの大衆にはちょっと理解されにくい面もあるのだろう。
 本アルバムは晩年のマルととくに親交のあった伊藤秀治氏がプロデュースしたもので、全5作か
らなるマチュリティー・シリーズの第二作に当たる。伊藤氏は晩年のマルの演奏を円熟の視点から
とらえてこのシリーズを編集しているが、たしかに成熟と円熟をもった演奏であり、まるで道を極
めんとする僧侶の面影すら感じ取ることができる。伊藤氏はマルの演奏を7年間録音したというが、
ここでは信頼したプロデューサーを前に、マルが自分の心や感情をナチュラルに自由に吐露した演
奏が展開されており、このシリーズはどのアルバムよりもマルらしさに溢れたものになっている。
また本作は3曲でマルと娘のマラとの共演がみられる点に特色があるが、2人の共演は本作が最後
というから貴重だ。こういった父と娘の愛情の通い合った共演は希有であり、マラの澄んだ声は美
しく、娘もまた素直な感性を持っていることがわかる。マラが歌うのはBCEでBとEはマラの作
で、Cは親子の共作だ。Bなどマラはスキャットも加えてのびのびと歌い、マルのピアノも飛躍し
ていく。マルの残した秀作といえる。                      (岩浪洋三)

 

 

----- Magi(レコード新聞社)より---------------

 

円熟が故に、愛娘を前にマルは一際“丸み”を帯びる・・・

 マチュリティー(円熟)シリーズ第2弾!サブタイトルが示す通 り、この作品は後にも先にも
この1品限りの父娘デュオ・アルバム。向かい合う2台のピアノから奏でられる一音一音が独特
な空気を生み出し、親子の語らい、愛情、尊敬といった表現が見事なジャズとなって広がる一味
違った作品。いかにもマルといった独創的な世界を聴かせる「マイ・ファニー・バレンタイン」
と「クラウズ」。マラの艶やかなヴォーカルが素晴らしい「キャッスル・イン・ザ・スカイ」。
「キャット・アンド・マウス」でのピアノ共演は、アイデアに富んだドラマチックな仕上がりを
みせる。そして、ハイライトであるマラの自作自演ナンバー「ヒーズ・マイ・ファーザー」では、
父親と対峙し切々と歌うマラの歌声に思わず胸も熱くなる。遠く離れた地で暮らす2人が、父と
娘として、互いに敬意を払う音楽家として、心暖まる空間を見事な調和を保ちながら6曲のナン
バーで埋め尽くしている。また、このシリーズの楽しみでもあるジャケットだが、本作ではまる
で愛娘マラが語る家族の話に、寛ぎながら耳を傾ける包容力のある父親の如き表情を見せる優し
げなマルのショットが何とも味わい深い。                   (加瀬正之)

 

 

 


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